津々浦々、古本屋の入口にはまず、均一本のコーナーがあるものです。それはちいさな木箱に入れられ手書きのポップを添えられて足元に置かれていたり、もう褪色して読めない貼り紙が貼られた細長いワゴンにみっしりと並べられさらにその上にこれでもかと盛られていたり、足元から頭の上まである木の棚に隙間は許さないとばかりに隅々まで本が並んでいたり…。椎名誠の『岳物語』の横に、ちょっぴり日焼けした手塚治虫漫画全集があり、その下には『七田式右脳全開催眠法』なる怪しげな本があり、ここにある本はたいてい”1冊100円”であるという以外にはまるで共通点がないのです。このような均一本コーナーはともすると「安いだけでしょ」と侮られやすいものですが、このコーナーこそがその古本屋の顔でもあります。知らない人にはなんとなく入りづらいと思われてしまいやすいからこそ、中に気軽に入れるように、面白い本がたくさんある、お買い得なお店だと思ってもらえるように、いろいろな古本屋が工夫を凝らしています。往来には様々な趣味・生業をもつ人が通ります。時代小説しか読まない人、写真は好きだけど文字は読みたくない人、ノンフィクションしか読まない人、どんな人にもなにか1冊、「面白そうじゃん、100円なら買おうかな」と選んでもらえるように、さまざまな本を並べています。ここをよく見ていると最近の本の仕入れが分かります。たとえば均一本コーナーに歴史の本が多くなった時は歴史の本の新入荷が店内の棚にもある、という風に入口だけで店内のことがなんとなく分かるようになります。「椿は薮に始まり、薮に帰る」というかっこいい格言があるのですが、これはまず薮椿(控えめな花の日本椿の野生種)から椿を好きになって、いろいろな品種を集め始め、珍しい椿を求めて東西南北を駆け回るようになり、なんなら交配なども始めたりして、何十年も椿の道を邁進した挙句、最後には「やっぱり薮椿が一番だな」という境地に至るという円環の現象のことです。似た格言に「釣りはベラに始まり、ベラに帰る」というものもあり、色々な趣味の道に応用されています。古本屋においても、大変な初版本・稀覯本コレクターが、最後に均一本に戻りゆくことは時折観察され、古本道も「均一に始まり、均一に帰る」のかもしれません…。また、高額な稀覯本よりも均一本の方がネット通販にものっておらず、探しにくかったりすることもあります。腕に自信のある方こそ、珍しい均一本、お買い得な1冊を見つけて、古本道を極めてみてはいかがでしょうか。金座街店